メ・ニュイ・ダンソムニ

mes nuits d'insomnie 眠れない夜に...

一方が見張り、片方が待っている...

一人の人間が横になって眠ろうとしている。彼の頭の壁の背後では、一匹のネズミが外へ出ようと待ち構えている。男はネズミが動く音を聞いて、眠れない。ネズミは男が動く音を聞いて、出られない。一方が見張り、片方が待っていることの両者は不幸である。または一方が眠り、片方が外に出れば、幸福である。

ベケット『マーフィ』三輪秀彦

メグレ警視の捜査方法

「要するに」と、心理学に通じているのを鼻にかけているある男がメグレに言ったことがある。「あなたはいろいろと思いを凝らしているんだね?」
 それにたいしてメグレは恐ろしく真面目な顔をして答えた。
「私は考えたことなんかない」
 それはほぼ事実だろう。そんなわけで、いま、湿った冷たい通りに佇んでいるメグレは、考え込んだりしていない。いかなる考えも追っていない。まるでスポンジのような状態だと言っていいかもしれない。

シムノン『メグレと死体刑事』長島良三

眠れない夜に...

眠れない夜に私がいちばんよく想い浮かべた部屋のなかでも、バルベックの海浜グランドホテルの部屋ほど、コンブレーの部屋と似ても似つかないものはなかった。

プルースト『スワン家の方へ』吉川一義