メ・ニュイ・ダンソムニ

mes nuits d'insomnie 眠れない夜に...

メグレ警視の捜査方法

「要するに」と、心理学に通じているのを鼻にかけているある男がメグレに言ったことがある。「あなたはいろいろと思いを凝らしているんだね?」
 それにたいしてメグレは恐ろしく真面目な顔をして答えた。
「私は考えたことなんかない」
 それはほぼ事実だろう。そんなわけで、いま、湿った冷たい通りに佇んでいるメグレは、考え込んだりしていない。いかなる考えも追っていない。まるでスポンジのような状態だと言っていいかもしれない。

シムノン『メグレと死体刑事』長島良三